キッチンカーと移動販売をどう捉えるか
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本ページは、公的機関の報告書、各社の公式発表、自治体の案内で確認できた内容に限って、キッチンカー市場の全体像を整理したものです。特定の事業者や出店サービスの推奨、開業の成功を保証する趣旨ではありません。
キッチンカーは、車内に調理や販売のための設備を備えた車両で、飲食物などを販売する営業形態です。中小企業診断協会が令和5年3月にまとめた報告書「キッチンカー(移動販売車)の開業・運営支援マニュアル」では、「キッチンカー」は和製英語であり、アメリカ英語ではフードトラックと呼ばれると説明されています。同じ報告書は、キッチンカーのみを対象にした特別な法律はなく、食品衛生法に基づく営業許可を軸に、道路交通法や道路運送車両法などの一般的な法令が場面ごとに関わると整理しています。
移動販売という言葉は、キッチンカーより広い意味で使われます。調理して提供する飲食のキッチンカーのほか、弁当や惣菜、青果、パンなどを積んで売り歩く車、食品以外の物品を扱う車も含まれます。農林水産省の食品アクセスに関する資料では、移動販売は「近くにお店を作る」取組の一つとして位置づけられています。つまり、同じ「車で売る」仕事でも、街なかの昼食需要に応える飲食業としての側面と、買い物が不便な地域の暮らしを支える生活インフラとしての側面があります。
当サイトでは、前者を中心に、開業を考える人、出店場所を提供する側、車両を用意する側、そして自治体や企業の担当者という四つの立場から、読んで判断材料になる情報を並べていきます。以下では、市場の広がり方、主な営業の型、プレイヤーの構造、そしてこの業態に共通する課題を順に見ていきます。
許可件数と登録数から見る市場の広がり
キッチンカーの市場規模について、国が統一的に公表している数値は、今回確認できた範囲ではありませんでした。そのため、ここでは公表されている周辺の数値から広がりを読み取ります。
まず、前述の報告書は、東京都における移動販売車の営業許可件数が毎年増加しており、平成元年と比べて約8倍に増えたと記しています。報告書はこのグラフの出典として、国土交通省の「令和2年版 土地白書」を挙げています。報告書はまた、市場の拡大はコロナ禍の前から続いていた傾向であると述べています。
次に、出店場所と車両をつなぐ事業者の公表値があります。飲食店ドットコムを運営する株式会社シンクロ・フードは、キッチンカーのプラットフォーム「モビマル」について、登録事業者数が2022年1月に1,000を超え、2024年2月に5,000を突破したと発表しています。2024年2月のリリースでは、車両登録台数は3,300台を超えたとされています(2024年1月末時点)。さらに2025年11月26日の発表では、登録事業者数が1万を突破し、登録車両数は5,500台超、全国47都道府県すべてでマッチング実績があるとされました。
別の事業者の数値も確認できます。合同会社prove LiFE(千葉市)が運営するキッチンカー専用ポータル「KITCHENCAR'S JAPAN」は、公式サイトでキッチンカーの掲載台数を4,000台以上としています。また、株式会社Mellowの公式サイトには、全国の出店場所の数が掲載されていますが、ページ内の記載箇所によって数値が異なるため、最新の数は公式サイトでご確認ください。
ここで注意したいのは、これらの数字がいずれも「プラットフォームへの登録数や掲載数」であり、実際に営業している車両の総数や市場の売上規模ではないという点です。複数のサービスに重ねて登録している事業者もいるため、各社の数値を足し合わせて全国の台数とみなすことはできません。数値の増え方からは、出店場所を介したマッチングを利用する事業者が増えてきたことは読み取れますが、事業者の売上や利益の動向までは示していません。
キッチンカーの営業の型
キッチンカーの営業は、出店する場所と時間帯によって、おおよそ次の型に分けられます。1台の車が複数の型を組み合わせることも珍しくありません。
平日のランチ営業
オフィスビルの敷地、公開空地、商業施設の駐車場、マンションの敷地などで、平日の昼食時間帯に営業する型です。シンクロ・フードは、モビマルで扱う出店先として「平日のランチ案件」を挙げています。日替わり・週替わりで複数の車が入れ替わる運営が多く、場所の提供者にとっては、周辺に飲食店が少ない場所の利便性を高める手段にもなります。
土日祝日のイベント営業
祭りや音楽イベント、スポーツ大会、公園のマルシェなどに出店する型です。モビマルは出店先として、土日祝日のイベントを売上が大きい場として紹介しています。出店料は、売上の一部を主催者に支払う歩合型と、定額型に分かれます。前述の報告書は、出店料の目安を、固定の場合は1日あたり3,000円から数万円、変動の場合は売上の10〜20%としています。
企業・学校・地域活動への出張営業
シンクロ・フードのリリースには、出店先の例として、イベント、自治体、企業の福利厚生、学校、地域活動が並んでいます。企業の敷地での昼食提供や、学校行事での出店のように、依頼主が決まっている形です。売上の見込みを依頼主との条件で調整しやすい一方、日程が相手の予定で決まる面があります。
常設・住宅地での営業
商業施設や住宅団地の一角で、定期的に同じ曜日と時間に営業する型です。住宅街の空きスペースがキッチンカーの出店先として使われる例は、スペースシェアを運営する軒先株式会社のリリースにも見られます。顧客が固定化しやすい反面、同じ場所で長く営業するほど、メニューの更新や価格の設計が重要になります。
市場を構成するプレイヤー
キッチンカーの市場は、車を運営する事業者だけでは成り立ちません。周辺には、役割の異なる複数のプレイヤーがいます。
- 運営事業者:個人事業主から法人まで。飲食店が新業態として始める例、副業として始める例、複数台を持つ例があります。
- 出店場所の提供者:ビルや商業施設の管理者、マンションの管理組合、土地の所有者、自治体、イベントの主催者。場所を貸す側にとっては、賃料収入だけでなく、利用者の利便性や賑わいの創出が目的になることもあります。
- マッチング・スペースシェア事業者:出店場所と運営事業者を結ぶ事業者。特徴の違いは出店場所マッチングの比較表で整理しています。
- 車両の製作・販売・レンタル事業者:ベース車両の架装、中古車の販売、レンタルやリースを提供します。事業者ごとの違いは製作・レンタル事業者の比較表にまとめました。
- 周辺サービス:キャッシュレス決済、PL保険、食材・包材の仕入れ、車検や整備など。モビマルを運営するシンクロ・フードは、食材・包材の購入支援、キャッシュレス決済の導入支援、レンタカーや車検の紹介、スポットワーカーの募集支援を「モビサポ」として提供していると発表しています。
一つの事業者が複数の役割を兼ねる例も多くあります。たとえばフードトラックカンパニーは車両の製作・販売・レンタルと開業支援を、ケータバンク株式会社は製作・販売、レンタル・リース、開業支援、出店派遣を、それぞれ公式サイトで事業として挙げています。事業者を比較するときは、会社名だけでなく、どの役割を担っているのかを見ると整理しやすくなります。
コロナ禍以降に起きた変化
報告書は、2020年初頭から世界的に広がった新型コロナウイルスの影響で、人混みを避ける要請が強まり、飲食店がテイクアウト型へ業態を変える動きが広がったと述べています。その中で、低コストでテイクアウト専門の移動型店舗を始められるキッチンカーに注目が集まったという整理です。
この動きは、出店場所の側にも広がりました。軒先株式会社の2022年のリリースは、コロナ禍で出店場所をオフィス街から住宅街へ移すキッチンカーが増えたと紹介しています。住宅街の空きスペースを貸すオーナーが、設備投資をせずに現状のまま貸し出せることを利点として挙げている点も、同じリリースで確認できます。ただし、こうした変化の程度や定着度を示す統一的な統計は確認できていません。出店場所を選ぶ際には、周辺の人の動きを自分の目で確かめるとともに、過去の営業実績を提供者や他の出店者に聞くことが基本になります。
共通する課題
中小企業基盤整備機構(J-Net21)の開業ガイドは、キッチンカーの課題として、出店場所の確保、天候による売上の変動、車両の維持管理の負担を挙げています。好立地は競合との取り合いになることも少なくなく、固定店舗に比べて保証金や内装費などの初期投資を抑えやすい一方、車両の保険、車検費用、燃料代、駐車場代、故障時の修理費がかかります。
制度面では、出店場所が変わるごとに管轄の保健所に確認が必要になる点が負担になります。報告書は、都道府県をまたいで営業する場合には、都道府県ごとに保健所の許可を受けなければならず、仕込み場所と出店場所が別の都道府県にある場合はそれぞれで許可が必要になると説明しています。2021年6月の食品衛生法の改正を受けて施設基準が統一されたことで、複数の地域で許可を取得することは以前より容易になったとされていますが、細かな点は地域ごとに異なる可能性があるため、所管の保健所への確認が必要です。制度の詳細は営業許可と制度の整理で扱います。
費用と採算については開業費用と採算の考え方、出店場所選びと需要予測は出店場所選びと需要予測AI、キッチンカー以外の移動販売や防災との関わりはこれからの移動販売モビリティに整理しています。
本サイトでよく使う用語
以降のページで繰り返し出てくる言葉を、あらかじめ整理しておきます。いずれも、公的機関の案内や報告書の使い方に沿った説明です。
- 営業許可と営業届出:食品衛生法にもとづき、調理販売など一定の営業には保健所の許可が、弁当・そうざいの完成品の販売などには届出が求められます。区分は営業内容と自治体で異なります。
- 営業基地:北海道の案内では、発進前の準備や帰着後の後始末など、営業の管理的な業務を行う場所を指します。許可の申請先を考える基準になります。
- 仕込み場所:車内で仕込めない場合に、食材の下処理や調理を行う別の施設です。報告書は、この場所にも営業許可が必要になると説明しています。
- 出店料:出店場所の提供者やイベント主催者に支払う費用です。固定で支払う方式と、売上に応じて支払う歩合の方式があります。
- 8ナンバー:特種用途自動車の区分です。登録するかどうかで、車検の期間や保険の内容が変わります。
- マッチング:出店場所を探す事業者と、場所やイベントを提供する側をつなぐ仕組みです。サービスごとの違いは比較表に整理しています。
一次情報の確認先
- 一般社団法人中小企業診断協会:令和4年度「調査・研究事業」キッチンカー(移動販売車)の開業・運営支援マニュアル 報告書
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21:フードトラック(キッチンカー)
- 株式会社シンクロ・フード:モビマル登録事業者数が1万を突破(2025年11月26日)、登録事業者数が5,000を突破(2024年2月20日)
- 農林水産省:食品アクセス(買物困難者等)問題への取り組み方について
